集合住宅と周辺地域をつなげる建築的な試みがなされたと聞いて
建設業界の業界紙と言えば、「日経アーキテクチュア」。
業界紙とは言え、建築施行技術に特化したものというわけでもなく、広く“街づくり”に関わる情報がタイムリーに紹介されています。
しかし個人的に読むためには、図書館等に行くほかは、年間購読契約が基本。かなり大きな書店でなければ、単体で売られる姿を見ることは困難です。
そのweb版とも言える存在が「ケンプラッツ」というサイト。
正確には「日経アーキテクチュア」ほか、「日経ホームビルダー」「日経コンストラクション」等の広い建設業界のニュースが読めます。
なので基本的には、webでの情報収集がおすすめです。
そんなケンプラッツで今日気になったのは、この記事。
設計者は食堂を核に入居者同士、さらに地域コミュニティーとの交流が生まれる集合住宅を提案した。交流を促すソフト面での仕掛けと建築を一体的に設計することで、魅力的な住環境を実現している。
(ケンプラッツサイトより)
当たり前のことですが、ただ「集合住宅を建てました。1階に店舗を入れました」ということではありません。
併設した食堂を媒介に、集合住宅の入居者と周辺の地域コミュニティの“混ざり”をコンセプトとしているのです。
—さて、これがなぜすごいことかと言えば。
既成市街地に集合住宅(小規模世帯向けの賃貸を想定)ができる経緯の多くは、個人地主又は法人地主が余った土地の有効活用をするためです。
つまり、自己の居住または事業を行なうために必要最低限以上の余った土地は、単に塩漬けにしておくよりは、集合住宅等を建てて安定した賃料収入としたほうがより生活の足しとなるわけです。
こうして「庭先木賃」と言われるような、個人邸と同敷地内に木造アパートが建てられ、街に新たな入居者が入ってきます。
ここで大事なのは、そうした集合住宅の入居者(多くは学生など小規模世帯で、居住の流動性高い)というのは、入居後も余所者に過ぎず、周辺コミュニティとは隔たっているということです。
悪い言い方をすれば、そうした入居者は地主の小遣いを回収するための客体に過ぎないということ。
「周りに迷惑をかけず」「大家にも迷惑をかけず」「お金だけ払って」暮らしてもらえばそれでよく、積極的に地域コミュニティの構成員になってもらうような面倒なことは例外的でした。
さらに直接の大家でなく周辺地域にとっても、そうした集合住宅、特に単身学生は「騒ぐ」「ゴミ捨てルールを守らない」「ガラが悪い」の三拍子揃った迷惑施設に近いもの。好意的な要素はほとんどありません。
古き良き時代は、“下宿のおばちゃん”的存在が地域コミュニティへの窓口を果たしていたのかもしれませんが、今や新しい集合住宅ではオートロックが当たり前。周辺環境から隔てる方向に更に進みます。
IT技術が飛躍的に発達して距離を超える通信があまりに容易になった今、彼らのような若年・単身層にとっても地縁を意識する必要が全くないわけです。
「別に嫌われてもよいし、こっちも興味がないもの」となる。
まとめると、市街地の中の集合住宅というものは、周辺の居住者にとって関わりたくないブラックボックスであり、地域コミュニティの中に空いた空洞と言えます。
その中で何が行なわれているのか知る由もないし、集合住宅に居住している人々にとっても周辺地域に関心が向くインセンティブは全くない。
そんな中、改めて今回のニュース。
場所は東京都目黒区目黒本町五丁目。
東京都の木造住宅密集地域(モクミツ)であり、都や区が「密集事業」として道路拡幅や公園緑地の整備に取り組み、防災性の向上させようとしているところ。
かつて住んでいた足立区千住地域もそうでしたが、こうした地域は防災性能の危険性が高い一方、古いからこそのコミュニティの強さを有しています。
そのコミュニティの強さが、こうした新しい試みに対してどちらに転ぶか、注目します。
参考平面図(ケンプラッツサイトより)
余談ですが、今回一番驚いたのは、このコンセプトと実現手法が、かつて私が初めて取組んだ設計演習の成果物とかなり似ているということ。笑
出来が悪く恥ずかしいのですが、写真を載せます
基礎情報
・密集地域(足立区千住大橋周辺)に計画
・コンセプト:単身学生と周辺地域とのつながりの誘発
・1階の交差点に面した半分を食堂とし、入居者のほか一般利用も可能→入居者と地域との交流を期待
・1階のもう半分を大浴場として、入居者のほか一般の銭湯利用も可能→入居者と地域との交流を期待
・2・3階は学生寮で、フロアごとの共用談話室(リビング・キッチン機能を集約)を用意し、それを囲むように個室を配置→入居者同士の交流を期待
今回のような緻密なプログラム等は用意していませんでしたが、かなり共感する試みなので、見守っていきたいなと。