密集事業と市街地の陳腐化 - 「町屋銀座まちづくり? 第8回」
荒川地域や町屋地域に限らず、都内あちこちで実施されている密集事業について紹介。
木造住宅の密集地が、全国に分布しています。
こと東京においてはその危険性が顕著で、市街地改善のための様々な取り組みが行われてます。
東京都が策定している計画では、密集市街地(都は木造住宅密集地域と呼ぶことが多い)は以下のように分布してます。
(東京都「防災都市づくり推進計画」より)
密集市街地とここでは呼称を統一しますが、その何が問題かと言えば、以下の2点に尽きます。
- 老朽木造家屋が密集しているため、火災時に延焼(燃え広がり)が発生しやすい
- 街路に十分な幅員がないために緊急車両が入ることが困難で、消火作業や救助作業に支障をきたす
ゆえに、ちょっとした小火でも都市火災になりかねない危険を孕んでいることになります。
つい最近でも、新宿ゴールデン街の火災や世田谷区太子堂の火災が発生して、その危険性が報道されたところです。
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通常は、個別の建替えが行われることで市街地の不燃性は上がっていきます。
新しい建物は当然耐火性能は強まるし、構造が鉄骨や鉄筋コンクリートに変わることでも強くなります。
ただ、密集市街地においてはそれもままならない事情があります。
要因は互いに絡み合っていて単純には切り分けられないのですが、大きくは以下の4つ。
- 2項道路の後退により狭小敷地がさらに削られるため、生活再建することが困難である
- そもそも接道していない敷地もあり、基準法上の建築行為ができない
- 居住者の高齢化により、建替えの必要性を感じにくい
- 建替えのための資金が不足している
①②については前提として、
「敷地が道路に2メートル以上接していなければ、建築行為をしてはならない(=接道義務)」
「接道義務における道路は、幅員が4メートル以上なければならない」
という建築基準法上のルールがあります。
現行の建築基準法が施行されたのは1950年なのですが、施行の時点で基準法に適合せずに既に存在していた建物(接道義務を満たしていない、など)については”既存不適格”と呼び、4メートルに満たない道路については”2項道路※”に位置付けられます。
※2項道路…建築基準法第42条第2項に位置付けられる4メートル未満の道路で、建替え時に道路中心線から2メートル敷地を後退(セットバック)させなければならない
(AllAboutより 法42条2項道路とセットバック [不動産売買の法律・制度] All About)
セットバックにより少しずつ拡幅される道。
(新宿区より細街路拡幅整備事業について(はじめに):新宿区)
こうした理由から、建物オーナーの自助努力だけでは密集市街地の根本的な防災性向上は進みません。
もちろん防災性は、建物や道路幅員といったハード要素のみではなく、居住者の自助・共助によって賄われる部分も多いのですが、現時点の公共の考え方ではハード要素こそを信頼できる重要なものと位置付けています。
ゆえに、本来は私有財産である個々の住宅等についても、公共介入を行うことで防災性向上のテコ入れをする必要が生じるのです。
それが、いわゆる密集事業というわけです。
この事業は、第一義的には基礎自治体である区や市が進めるのですが、東京都内では国に加えて都の補助金も活用できるため、街の不燃化推進をさらに急いでいます。
特に東京都では木密地域不燃化10年プロジェクトを掲げ、平成32年までに不燃領域率を一定の水準に高めることを謳っており、そのための上乗せ補助制度も作っています。
これに併せて、塩漬けされていた都市計画道路についても、防災性の名の下で事業化が加速されています。
さて、密集事業において不燃化を進めるツールは、
・道路の拡幅整備
・建替え支援
・公園・広場等のオープンスペースの整備
・防災まちづくり支援
の4つが主要なものとなります。
建替えに助成して、細街路の沿道であれば後退してもらって、前面に接道がなくて個人で建替えが難しければ周囲と共同化の可能性を模索して、不動産の提供があればそこを公園空地にして、街の不燃性を高めていくことになります。
そして、実は荒川区の大半のエリアにおいてこの事業が進められています。
町屋地域、荒川地域、尾久地域。
町屋銀座を擁する荒川六丁目にも、この網はかけられています。
(荒川区より)
いずれの地域でも、地元町内会の方々を中心としたまちづくり協議会(名称はさまざま)が行政発意で設立され、街歩きによる地区課題の抽出から防災まちづくり計画の検討、公園づくりワークショップ等が実施されています。
この事業は基本的に息の長いもので、10年20年とずっと行政介入が続くことが珍しくありません。
しかし確かに、確実に街の更新や不燃化は加速されていくのです。
なんか最近新しい住宅が増えたなーと思ったら、この事業のお金が使われているかもしれません。
ーただ。
難しいのは、街の魅力はむしろ、古い建物や細い路地にこそ宿っているという皮肉な事実です。
街の更新により防災性を上げていくということは、熟成した街の魅力を失うことと同義とも言えるのです。
地域のシンボル的な建物がなくなり、味気ないサイディング仕上げのプレファブ住宅が街に増えていきます。
恵まれた敷地は相続対策で売却、分割され、3〜6軒くらいのコピペ住宅に生まれ変わります(ミニ開発)。
(この写真と文章は無関係です)
こと、商店街であった地域は都市計画規制が比較的緩い上に前面道路にも恵まれているため、そもそものオーナーの自力建替えに加え、強い開発圧力もあり、商店街が歯抜け住宅街化しやすいのです。
仕方ないとは言え、商店街という文化も確実に蝕まれていきます。
もちろん、『人命こそが大事なのだ、街の魅力などそれからでよいではないか』という指摘があるでしょう。フリーライダーである私には、そこに反論することはできません。
量産住宅についても需要と供給の関係で説明することができるので、資本主義の流れがそうなのであれば仕方ありません。
これについては現時点で答えがなく、問題提起だけで今回は終えます。
立ち向かいたいのなら立ち上がるしかなく、それはただのノスタルジアでは対抗できないのでしょうね。