役所の工事監督業務について詳しめに書いてみた - 「なぜ役所を辞めたのか?第3回 営繕業務とは【後編・監督編】」
今日は第3回。
役所の営繕業務のうち、設計業務の後に発生する工事監督業務について書いてみます。
第1回、第2回はこちらからどうぞ。
工事請負契約
前回までに述べたような工事情報を入札情報として公告した後、適正な有資格者が落札したとします。
ここから、改めてその契約候補者の適正が審査され、問題がなければ工事請負契約の締結となります。
一体何が審査されるのかと言えば、建設業の許可状況であったり、雇用している技術者の資格状況や、兼任の工事の存在などです。
工事請負契約書は、工事入札時の設計図書一式に加えて、表紙と約款によって構成されます。
表紙はこんな感じ。
工事請負契約書の参考イメージ(全建総連HPより)
そして、約款はこんな感じです。
工事請負契約約款のイメージ(横浜市HPより)
約款とは、契約の履行にあたって両者が守るべき細かなルール一式をまとめたもので、自治体ごとに作られているようです。
契約日から何日以内に工程表を提出しなければいけない、とか、そんなことが定められています。
契約に至った後は、正式な請負人の代表者が担当課の窓口に赴き、ここでようやく初顔合わせ。
そこから、工事監督業務が始まることとなります。
え、工事監督って、、、現場に出るの??
工事監督≠現場監督
役所における工事監督とは、工事施工における現場監督とは全く意味が異なります。
工事現場に常駐する、請負人側の現場監督は、あくまで施工管理をするためのもの。
様々な工種の作業員さんのアタマとして、仕事を仕切ります。
こちらのほうはあくまで管理をする監督なので、"たけかん"と呼ばれます。
一方で役所で任命される工事監督は、公金を支払って実施される工事が、契約内容通り、品質面でも安全面でも無事に完成することを監督する立場です。
建築基準法上の"工事監理"にほぼ近く、そうであれば"さらかん"と表現する立場に近いですね。
「工事監理」とは、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認すること
(建築士法第2条より)
従って、工事請負契約を締結した後、役所側がまず最初にすることは、監督員を明示することです。
請負人に対して「この工事の監督員(担当職員)はAです。今後はAとやりとりを行ってくださいね。」と通知するわけです。
実際の監督員任命通知(横浜市工事監督事務取扱要綱より)
監督員の具体的な実務
さて、工事監督業務が始まりました。
契約直後は比較的動きが慌ただしくなる傾向にあり、
- 契約内容の読み合わせ
- 着手時書類の提出
- 工事の流れの説明
- 現場調査への同行
- 監督官庁(道路占有・道路使用関係ほか)との打ち合わせ
- 実施工程・施工計画書ほか施工書類の承認
という流れになります。
現場調査を踏まえて請負人さんは施工計画書の作成に入るので、資材搬入や仮囲いの設置といった実際の現場乗り込みは、契約後1ヶ月半後程度という傾向でした。
もちろん工事規模に応じて、事前調整だけで数ヶ月間ということもあり得ます。
ちなみに、施工計画書とはその名の通り、施工プロセスや安全管理の方法を明文化した計画書です。
コンクリート工事や鉄骨工事といった工種別に施工計画書が作られることもありますし、小規模な工事の場合は複数工種であっても総合施工計画書一本で済ませるということもあります。
工事監督の実務で重要なことは2つあったと感じます。
それは、「①マニュアルがない」ことと、「②基本的に書類仕事である」ことです。
現場が始まるとフリーダム化
「①マニュアルがない」だけに自由で、担当職員によって工事監督の具体的なやり方は様々です。
もちろん工事内容にもよりますが、極端にいえば。
足繁く現場に通って状況を目視する監督員もいれば、
工事中ほとんど現場に行くことのない監督員もいます。
監督実務の方法が分かれる大きな要因は、現場で監督員がすることがないからです。
当たり前ながら工事は"請け負われて"いるのであり、契約履行は請負人によって行われます。
仮設計画直後や墨出し・位置出し、解体範囲の確認など、現場で確認すべきフェーズはあるわけですが、そうした必要なタイミングに限って現場に行けばよいのであり、訪問頻度を上げることによるメリットはあまりありません。
作業員にプレッシャーをかけることが良い方向に出ればよいですが。。。
考えられる二つ目の要因として、安全の管理には際限がないからということもあります。
これは言わずもがなですが、実務となると難しいものです。
以上から、監督員が現場確認する頻度は自ずと少なくなります。
多くは、週1回程度の工程会議開催前後に現場を確認するくらいになるほか、小規模な工事では工程会議すら開かれません。
すると、「②基本的に書類仕事」となるのです。
前述した施工計画書や実施工程表、週間工程表や作業日報など、請負人から提出される書類を読み、承認する。決裁ですね。
これらを、担当監督員→主任監督員→総括監督員といった順序で回議し、決裁されたところで請負人に返却する。
このサイクルを続けていれば、乱暴な話、工事は進みます。
設計変更
工事が始まって現場が進むと、設計時に想定していなかった作業が必要になることもあります。
例えば改修工事において既存部分の解体を進めている際に、石綿(アスベスト)が見つかってしまった場合はどうでしょうか。
いろいろなことが考えられますが、この場合は石綿を除去する作業が必要になります。
契約時の設計図書にないのであれば、その除去作業を追加した契約内容に変更してやる必要が生じるわけです。
請負人にとっては工事全体の収支に関わる重要な設計変更なのですが、行政職員にとっては気軽なものではありません。
それは、予め確保した予算を超えたくないという事情ももちろんあるわけですが、なんと事務作業が面倒であるというトンデモ理由もあります。
設計変更を行う場合、設計業務に戻ってほぼ同じ作業をやり直す必要があるので、行政職員は尻込みしてしまうのです。
検査
一般的な事業所では、注文した物品が納品されたらすぐに代金を支払うのでしょう。
しかし役所では、納品から支払いの間に、「納品された物品は本当に契約内容の通りである」ことを確認する検査があります。
もちろん工事においても同様で、契約通りの内容が履行されたということを検査します。
具体的な工事検査には、書類検査と現場検査に分かれます。
書類検査では、工事中にやりとりされた書類や工事写真、完成図等をまとめた工事完成図書を確認します。
現場検査は言わずもがな、ですかね。
検査で無事に合格となれば、請負人さんはようやく工事代金を請求する権利が発生します。
まとめ
またしても冗長な文となってしまいましたが、ここで主張したいことは少ないです。
それは、工事監督はやりがいを感じにくい仕事であるということ。
よく、役所の仕事の中で営繕業務を、"実際に形になる、見える"仕事として評価する向きがあります。
しかし私はそうは思えませんでした。
工事するのは請負人さんです。請負人さんが建物や工作物を作ってくれるのです。
その完成物を見て、担当監督員に過ぎない自分が、"これは私がつくったものだ"という感覚を持つことは難しいです。
営繕部門の行政職員の使命とは、予め定めた発注スケジュールに沿って、予定通りの工事を進めることです。
ゆえにできるだけ工事契約期間以内で、突然の設計変更も発生させず。仕事も増やさず。
もちろん、設計内容に個人的な嗜好を挟んだりすることは可能なわけですが。
そして厄介なのが、監督員と現場代理人(請負人の代表者)の、決して対等ではない関係性です。
いや、本来的には対等なのです。
一つ目の要因は、現場代理人は担当監督員よりも遥かに年上の方が務めることが多いのですが、必要以上にペコペコしてしまうことです(もちろん気持ちはわかるのです)。
二つ目の要因として、担当監督員は大した専門的蓄積もないのに、承認一つで現場代理人を振り回すことができる立場にあることです。
あくまで役所のお金を使った工事であるのに、”いかに請負人に金額以上の働きをさせるか”という、お客であるような、傲慢でおかしな感覚を持ってしまいがちなのです。
これはあくまで個人的意見ですが。
そんな違和感の蓄積が、役所を辞めて転職したpush要因の一つです。