no pleasure, no life(旧ブログ名:まちづくり、例えばこんなふうに)

意固地になるほどに"まちづくり"が気になって仕方ない。自分の関わったまちづくりの活動・調査の記録を中心にしつつ、"都市""街の変化"の話題など。 Keyword→まちづくり/都市計画/荒川区町屋/蒲郡/豊橋/三河/谷中

まち普請事業の意義など。

今週末は。

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「ヨコハマ市民まち普請事業」の公開二次コンテストが開催されます。

 

1 日 時   平成29年1月29日(日) 9:30から17:00まで(予定)

2 場 所   横浜市市民活動支援センター4階(中区桜木町1-1-56)

      JR根岸線桜木町駅(北改札)徒歩4分/市営地下鉄桜木町駅 徒歩7分

      みなとみらい線みなとみらい駅 徒歩10分

3 プログラム

          9:00 開場
          9:30 開会、整備提案の発表
               (昼休み)
         13:30 公開選考
               交流タイム
         17:00 閉会

 (横浜市記者発表資料より)

 

 

行政介入型のまちづくりの中でも、ひときわ特殊。

事業開始から12年目を迎え、2015年には都市計画学会の石川賞を受賞したこの事業をご存知でしょうか?

 

 

まち普請事業とは?

 

横浜市 都市整備局 地域まちづくりの推進 ヨコハマ市民まち普請事業 ヨコハマ市民まち普請事業 トップ

 

「普請(ふしん)」とは聞き慣れない言葉ですが、安普請(やすぶしん)のような表現はたまに使うことがありますよね。

「普請(ふしん)」とは、「普く請う(あまねくこう)」とも読み、「力を合わせて作業に従事すること」という意味が含まれています。「公共」は行政によってのみ担われるものではなく、特に地域に根ざした身近な課題への対応などに市民のみなさんが主体的にかかわることで、参加する人や地域に暮らす人々の満足度を高めることにつながっていきます。「まち普請」には、市民に身近な「まち」に「普請」の輪を広げていきたいという願いが込められています。

横浜市HPより、太字部筆者) 

 

さて、では、まち普請とはどんな事業か。

簡潔に言うと、『身近な街のハード整備に関して、住民が行政の協力(お金+庁内協力体制)を勝ち取るためのコンテスト』です。

 

以下、この事業の流れと概要、特徴を掲載しますね。

 

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横浜市HPより)

 

■ 事業概要

●この事業は、横浜市地域まちづくり推進条例に基づく支援策のひとつとして、市民のみなさんから身近なまちの整備に関する提案を募集し、2段階にわたる公開コンテストで選考された提案に対し、最高500万円の整備助成金を交付するものです。

●この事業では、市民のみなさんが身近なまちの整備に関するアイデアを出し、共感する人を集め、議論、計画づくり、合意形成、整備、維持管理まですべて自分たちの手で取り組み、市はそれらを市民が主体となって実現できるようサポートを行います。

 

これは間違いなく、横浜市の都市整備分野、市民まちづくりにおける目玉だと感じます。

なぜか。

それは、"行政介入型市民まちづくりの進化系"と言えるからです。

 

 

まちづくり条例が生んだ行政介入型市民まちづくり

 

"行政介入型市民まちづくり"とは私の造語ですが、まずはこのニュアンスを説明したいと思います。

 

"まちづくり条例"というものが全国に数多あります。

これは建前上は、市民主体のまちづくり活動に対して、行政が認定するための手続きを定める条例です。

 

例えば、地縁に基づいて集った住民団体があったとします。

彼ら彼女らがまちづくり活動をしたところで、あくまでそれは民民で相互扶助行為をしているにすぎず、その時点では行政とは関係を持ち得ません。

しかし、時には手段として、道路整備や法制度的なブレイクスルーなど、行政の協力が必要になる場合があるでしょう。

そんな時、たとえ真っ向から「行政はこの道路を整備するべきだ」と主張したところで、以前述べたような理由で、行政がすぐに対応するということはありません。

この時点での、任意団体としての住民の声は一陳情や広聴に過ぎず、公式な意味で行政に声を届けることはできないのです。

行政側にしても、公平性の観点から、そうした要望に逐一対応することが難しい事情があります。

 

しかしそのままでは、せっかく高まった住民まちづくりをフイにしてしまい、意識を殺してしまいかねません。

また、行政的には、まったく声の上がらない地域に対して施しのように介入していくよりは、声をあげてくれて、なおかつその後の継続的なまちづくりも期待できそうな地域に介入していくほうが、効果も高く、良いと考えます。

 

では、あらかじめそうした団体と行政の関係について一定の作法を定めることで、関係を明確化すればよいのではないか。

そこで、行政はそうしたまちづくり活動を行政が認定する手続きを条例として定めることで、市民と協働のまちづくりを表立って進めることを可能にしているのです。

 

一般的な流れはこんなイメージです。

  1. 地域で一定の割合の参加者が集まったグループが、行政に申請をすることで条例に位置付けられた"まちづくり団体"になる。→条例がなければ任意団体止まりだった
  2. この"まちづくり団体"は行政の支援要請や専門家(まちづくりコンサルタント)派遣を受けることができ、地域の合意形成を進めながら計画を作成する。→条例がなければ独力で進めるしかなかった
  3. そうして出来上がった計画は、所定の手続きを経ることで、条例に位置付けられた"市民まちづくりプラン"とされ、今後市長はこの"まちづくりプラン"に沿って行政事務を行うよう努めなければならなくなる→条例がなければ行政に届かなかった

 

こうして市民からのまちづくり提案は、行政の施策に一定程度反映されることが担保されることとなります。

ただ、こうした条例を作ったところで、まちのルール策定や特定事業の導入など、行政的な"オトシドコロ"を前提とした傀儡的まちづくりに活用されることが実際は多く、本来的な意味での市民発意のまちづくりと言えるのかというジレンマはあります。

地域が本当の意味で自主自立の形で、独力による(条例の定義する狭義の)まちづくりを進めることは難しいのが事実です。

それを逆手に取った行政は、行政発意であるまちづくりさえも、このまちづくり条例に基づくシステムに照らし合わせて、あたかも地元発意のまちづくりであるような演出をするようになるのです。

代表的なのが、行政がある地区に密集事業を導入したいのに、あくまで"防災性に危機感を持った地元組織からの提案を受けて行政が動き出した体にする"、というような。

 

この状態は、ある種の理想とも言える"意識ある市民が行政の協力を得ながら市民まちづくりを進めていく"という形から、"行政の進めたいまちづくりのために市民に協力してもらう"という形への変容を意味します。

ただ、そうしたまちづくりによって市民は損害を被るわけではなく、むしろ相対的には住環境は維持・保全されるため、この形は暫定的ながらベターな形と言えます。

 

ここに違和感を持つ要因は、"まちづくりは市民発意に基づき市民主体で進められるべきだ"という潔癖的な価値観なわけですが。。

 

 

横浜市はもう一歩進めている

 

話は戻り、では横浜市のまち普請事業がどのように画期的なのか。

横浜市も同様に、「横浜市地域まちづくり推進条例」というものを平成17年に制定しており、市民まちづくりの流れを定めています。

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横浜市HPより)

 

この条例そのものは、他の自治体におけるまちづくり条例と基本的に同じ構造です。

ただ、横浜市において光るのは、使えるメニューとしてのまち普請事業です。

それは、行政介入型まちづくりの中では特異なほど住民の自主性を要求している点です。

 

事業主体である横浜市が主張する、事業の特徴がこちら。

■ この事業の特徴

1 ソフト面(活動)の助成ではなく、ハード面(整備)の助成であること。

2 助成金の助成率を設定しない代わりに、市民に整備に要する費用、整備における労力又は整備した施設の維持管理などの負担などを求めていること。

3 多様化する市民ニーズに対応し、整備分野を限定していないこと。

4 1次コンテストを通過した提案グループに対し、行政との話し合いの場づくりや活動費用などを支援し、その上で2次コンテストを行うという2段階の選考システムとしていること。

5 コンテストでは、選考のプロセスすべてを公開し、公平性、透明性、公開性を確保していること。

これらに加えて、事業概要にあった「共感する人を集め、議論、計画づくり、合意形成、整備、維持管理まですべて自分たちの手で取り組む」という点が特徴です。

 

さて、引き続き独断と偏見全開で話してみましょう。笑

 

従来的な行政介入型まちづくりにおいては、市民まちづくりの手続きを定めたとしても、それは儀礼の域を超えないものでした。

これまでの行政にとっては、あくまで理想でしかない"熟議による合意形成"なんかよりは、まちのご意見番である町内会や商店会、PTAといった主体を計画づくりの現場に同席させるというわかりやすい演出こそが重要です。

防災性向上や住環境保全といったお題目を掲げ、ルールの策定やプランの作成といった、見える成果こそが重要なため、どちらかといえば市民協働というものはアリバイ的な性格が強いものでした。

そのためには、"地域みなさんの総意である"、ということにする手続きこそが大切。

 

確かに、市民協働とは美しい言葉ですが、実際は不確定要素ばかりで難しいもの。

ましてや反対意見を全て解決することなど至難の業。

不測の事態を何より嫌う行政組織にとって、丁寧に合意形成を進めていくことについて気が進まないのも仕方ありません。

 

こうして、市民まちづくりとは掛け声ばかりに形骸化していくのですが、横浜市ではもう一歩進めているのです。

 

それがまち普請。

まず、これに応募する市民団体は、地域の合意形成を住民主体で行うことが前提となります。

もちろんそれにあたって、市都市整備局地域まちづくり課がサポートにまわるわけですが、結果ありきで進めるこれまでのまちづくりとはやや異なります。

 

また、維持保守にかかる負担などは住民側が被るのです。

 

以上からこの事業は、行政介入型市民まちづくりにしては住民側の負担割合が高いのです。

"自分たちのまちは自分たちの手で"というのが市民まちづくりの理念であるとすれば、かなりその理念に近づいていると感じるのです。

 

もちろん、こうした事業が可能な要因に、基礎自治体として最大の人口を持つ横浜市の潤沢な歳入や注目度があるのでしょう。

ただ、それを差し引いてもあまりある事業であると感じます。

 

 

さて、今週末。

 

この事業により整備が実現された事例は、以下のページで紹介されています。

横浜市 都市整備局 地域まちづくりの推進 ヨコハマ市民まち普請事業 ヨコハマ市民まち普請事業 整備事例

 

そんな事業の公開コンテストが、今週末に。

市民まちづくりの最先端を、のぞいてみませんか。