善悪では語りきれない道路整備。荒川区の都市計画道路の現状と今後について整理してみた。(その1)
間違いなく必要なのだけれども、あまり近くにあってほしくないものってありますよね。
そう、迷惑施設の話です。
英語ではNot In My Back Yard(「我が家の裏には御免」、略称NIMBY)という言葉として、火葬場や清掃工場、食肉処理場、空港等、場合によっては学校まで含むこともあります。
これらは社会生活を営む上で必要不可欠な施設であることは間違いないのですが、あまりに近すぎるのは好ましくないという困った存在。
そして、通常はそのNIMBYにはあまり含まないものですが、道路というのも迷惑施設の一つと言えるのではないかと考えています。
道路というものは、広域的な交通ネットワークや大火時の"焼け止め"のために必要であることは疑いありません。
しかし、いざ自分の家の前に幹線道路ができてしまった場合、交通量の増加に伴う交通安全の課題が発生したり、排気ガスによる生活環境の悪化も危惧されたりします。
誰しも、賃貸でお部屋を選ぶ時に、大通りに面した物件を避けた経験があるのではないでしょうか。
さらに加えて、道路がとっても近いどころか、近すぎて、"自分の土地が道路用地として公共に召し上げられてしまう"という事態もあり得るでしょう。
用地買収として相応の補償がなされるとは言え、先祖代々からの土地をとられてしまうということはそれだけで耐えがたいことかと思いますし、培ってきた生活の継続性が失われてしまうという問題もあります。
さて、今回も前置きが長くなりましたが、今日はそんな道路についてとりあげてみます。
そんな道路は、都市計画道路と呼ばれます。
この都市計画道路について、最新の情報を見ながら考えてみたいと思います。
その1では、都市計画道路の基本的な情報について。
都市計画道路とは
まずは、都市計画道路とは何か。
一言で表すと、「行政が都市計画上必要として決定手続きを行なった道路」となります。
性質上のポイントは二つです。
- あくまでも決定されただけであり、まだ作られていないものもかなり存在してること(=物理的な道路に限らないこと)
- この"決定"があまりに目立たないこと
ということに尽きます。
都市計画道路の三段階
都市計画道路にはおおまかに、計画、事業化、供用という3つの段階があります。
①計画段階
計画は、「ここに道路を(いつか)作りますよー!」と、行政が手続きを踏んで決定した段階です。
ですので、この時点では物理的な道路形状は現地に存在しないことになります。
ただ、決定されただけの時点でも、都市計画道路の区域内にかかった敷地には、一定の建築制限がかかります。
そこには何もないのに、管理者の自由な建築行為に対して制限がかかってしまうのです。
制限内容は複雑ですが、「鉄筋コンクリート造はNG、三階建以上はNG」とだけイメージしてもらえば。
制限内容が気になる方は、自治体が情報を開示しているので調べていただければと思います。
例として、大田区の事例がこちらです。
②事業化段階
事業化は、「よし、これから都市計画道路を作りますよー!」ということで、行政がいよいよ具体の道路整備に向けて動き始める段階です。
決定手続きとは異なりますが、ここでも"事業認可"という都市計画上の手続きがなされます。
事業化の決定がなされたとはいえ、すぐに道路整備のための土木工事が始まるわけではありません。
ここからようやく、用地買収に向けた水面下の交渉が始まります。
難航するところで、時間とお金がかかるフェーズと言えるでしょう。
ちなみに、事業認可後に初めて権利者との接触が開始されるわけではなく、実際は事業認可前から、事業規模などを検討するための測量などで地元に入るようです。
ちなみに、都市計画道路が事業化されると、このような看板が現地付近に立てられます。見覚えはないでしょうかね。
③供用段階
用地買収のための長い長い交渉が終わったのちに、ようやく道路を作る工事が入ることになります。
完成すると、テープカットのような儀式をして、供用開始となるわけです。
荒川区の都市計画道路
都市計画道路については、具体例を見るのがわかりやすいでしょう。
荒川区で2つの例をご紹介します。
補助90号線(≒ゆいの森通り)
まずは補助90号線。
以下の図で、茶色の線が都市計画道路の計画線ということになります。
(荒川区地図情報より、第二峡田小学校周辺)
正式名称は「東京都市計画道路補助線街路第90号線」です。長い。。。
実は町屋駅から西の部分も同じ補助90号線なのですが、おそちらのほうはおむね完成しています。
完成していない、町屋駅の東からサンパール荒川付近の区間については、いま現在事業が進行中です。
計画決定はなんと昭和21年4月25日。
東京都が平成24年に方針を打ち出した「木密地域不燃化10年プロジェクト」の中で「特定整備路線」として位置付けてられており、優先的に事業が進められている路線です。
補助193号線(=旭電化通り)
熊野前の交差点から荒木田の交差点の間で東西にまっすぐ走っている、旭電化通りです。
「旭電化通り?もうできているのでは。。」と思われるのかもしれませんが、完成していないのです。
(同地図より、荒木田交差点周辺)
この地図は、南北に走る尾竹橋通りと東西に走る旭電化通りの交差する荒木田付近を表しています。
尾竹橋通りについては計画線と実際の道路の線が一致していることが読み取れますが、旭電化通りについては計画線が一部建物と重なっていることが読み取れるのではないでしょうか。
実は旭電化通りの計画幅員は、もっと広いのです。
それゆえに、後述する「第四次事業計画」では優先整備路線の一つに位置付けられ、「平成37年度までに優先的に着手する」ことになっています。
そしてなんと、この旭電化通りについては今年の3月に事業認可がなされ、用地交渉が始まっています。
今回はこんなところで。
次回は、政策としての都市計画道路について考えてみたいと思います。