no pleasure, no life(旧ブログ名:まちづくり、例えばこんなふうに)

意固地になるほどに"まちづくり"が気になって仕方ない。自分の関わったまちづくりの活動・調査の記録を中心にしつつ、"都市""街の変化"の話題など。 Keyword→まちづくり/都市計画/荒川区町屋/蒲郡/豊橋/三河/谷中

都市計画のコンサルタント -「都市計画コンサルタントとは何者か 第2回」

さて、続きの記事です。

前回記事はこちらになります。

 

phantom-gon.hatenadiary.com

 

前回書いたような都市計画的な規制・事業を誰が決定しているのかといえば、広域自治体である都道府県と、身近な分野については基礎自治体(市町村)となります。

彼らが、”都市計画決定”という法定手続きを踏むことで有効になるわけです。

※ものによっては都市計画決定が不要だったり建築主事の決定だけで済んだり、ケースによっていろいろあります

 

もちろん、ホイホイと都市計画規制・建築規制を作ったり変えたりするわけにもいかない。なぜか。

理由としては、前述の都市計画決定の手続きに時間がかかるということもあります。

しかしそれ以上に、これは都市計画に限らない行政サービス全般に関わることなのですが、”その行為「この地区に、建築規制をかけることで良好な住環境を守らねばいけない」のが妥当であることを、論理的かつ地元に納得できる形で説明する”ことが大変なのです。

個人の権利に制限を設ける内容であるから、当然と言えば当然なのですが。

 

更には、行政が一般に何かを行う際に問われる、「それは既存の計画の中で謳われているのか・位置付けられているのか」ということが重要になってきます。

上位計画における位置付けが明確化されていることをもって、住民への説明責任とするわけです。

 

こんなイメージ。

釧路市より)

 

自治体の最上位の計画は【総合計画】なのですが、その下に分野別の行政サービスに関わる計画が紐付いています。 

都市整備分野に関する最上位の計画は【市町村都市計画マスタープラン】で、ここにその自治体全域の都市整備に関する事項がざっくりとした言葉で説明されています。

 

※意外に平易な表現で書かれてることが多いので、一度ご自分のお住まいの自治体のマスタープランを眺めてみてはいかがでしょうか。

荒川区都市計画マスタープラン

千代田区都市計画マスタープラン

蒲郡市都市計画マスタープラン

 

ある地区で何か都市計画的な事業(道路整備とか再開発とか)を行う、用途地域の変更を行う、地区計画を作る、といった時に、それは都市計画マスタープランに位置付けられていないといけません。

また、位置付けるためには、そもそもその地区でその事業をする論理的妥当性がなければいけません。

それはいかに説明されるのか。

 

一般的に「なんとか一丁目」といった範囲には数千の建物があるわけですが、その一つ一つに対して、

構造(耐火・準耐火・防火など)
築年数
階数
用途(事務所・住宅・商業・工業など)

といった情報を整理し、”この地域は他地区に比べて不燃化率が著しく低い、だから事業を行う必要があるのだ”ということをまとめる必要があります。

ここに権利関係が入ると、もっと複雑になる。。。(土地所有権、借地権、建物所有権、借家権が全部違うとか)

 

イメージはこんな作業。

日本データサービス株式会社より)

 

そのあたりの既存の地区情報を整理して、その解決のための建築基準法的・都市計画的手法を考えたり、組み合わせていきます。

 

そしてその内容を地元権利者と協議を行いながら、都市計画法に基づく決定手続きを行う。

決定手続きにより規制が有効となるので、そのあとは個別の建替えによって少しずつ街が意図した方向に更新されていきますが、土地区画整理事業や再開発事業といった事業的な手法であればこの先にさらなる長い時間をかけて街に介入を続けることとなります。

 

 

都市計画的な決定自体は行政内部だけで行われるのですが、その前に必要なプロセスとして公聴会という住民説明会を開催することが問われます。

権利者に対して説明責任を果たすということが、法律的に求められる。

 

f:id:phantom_gon:20160807092459j:image

都市計画法第16条より)

 

ただ、この権利者というのがまた難しいところで、立場やバックグラウンドがそれぞれ異なる権利者全ての合意を得て都市計画の仕事を進めることは本当に難しい。

というかそもそも何事も全員合意は不可能に近いので、行政側も初めから合意を諦めてアリバイ的な住民説明会に終始したり、住民側も公共の福祉よりは地域エゴ・権利主張のみに寄ってしまったり。 

ここは本当に難しい。

 

住民説明会はこんなイメージ。

札幌市より)

 

 

これが行政が行う、都市計画の仕事。

これは法律的な計画策定というジャンルになりますが、そのほかにも、

・特定地区のまちづくりの推進(密集市街地を改善するための国の補助事業など)

・法律に基づかない計画策定(まちづくり憲章とかデザインガイドラインとかいろんな名前のもの)

などがあります。

 

 

最後に、都市計画コンサルタントとは。

 

この仕事はきわめて専門的な技術水準が求められるために、4〜5年で配属異動をする行政職員が全ての作業に取り組むことは現実的ではありません。

これ自体は癒着を防ぐとかの意図で、必要な仕組み。

 

ゆえにこの業務を委託として外注する必要が生じて、都市計画コンサルタントと呼ばれる専門家集団が受注することになるのです。

地区の状態を把握するための図面を作成したり、解決のための処方箋を提示したり。

 

この都市計画コンサルタントという業界は基本的に中小企業(アトリエ系建築事務所をイメージ)が多いです。

そのほか、大手建設コンサルタント(※)の中に都市計画部門があったり、組織設計事務所の中に都市計画部門があったりするので、そのあたりが競合相手となります。

※建設コンサルタント…土木工事に必要な調査・設計をする人たち

 

建築であれば、設計から竣工まで短いスパン(数ヶ月〜せいぜい1、2年)で終わるわけですが、都市計画であれば発意から実現まで10年とか数十年とかかかります。

今の仕事がどれだけ後に形を見るかわからない、そしてその恩恵を全ての住民が納得するわけではない、そんな仕事。

 

それでもなぜその仕事があるのかと言えば、(全てではないにしろ)都市が抱える課題は、土地所有者・建物所有者の個人的な改善活動だけでは根本的な解決に至らないからです。

密集市街地の問題一つとっても個別建替えでは限界があり、そもそも狭小敷地にセットバックによる壁面後退(※)が加わると建替え自体が困難であることも珍しくない。

つまり、公共的な見地かつ一定の権力により、特定地区や全体の都市計画を行う立場が必要であると。

 

※セットバックによる壁面後退

建築基準法では敷地が幅員4m以上の道路に接してないと建築行為ができません。

1950年の建築基準法施行以前に現存した幅員4m未満の道路に接する建物は、建替えの際に道路中心線から2m後退しなければいけなくなります。

 

 

こんなところで、都市計画の実務とコンサルタントのイメージは伝わりましたでしょうか。