事例紹介:たまプラでの協働の取り組み
facebookのTLに、大学院の恩師がデカデカと出てきて驚いた。
こちらの記事です。
まちづくりWho’s who vol.5小泉秀樹先生(東大大学院教授)たまプラの特殊性は何か? | 次世代郊外まちづくり – たまプラ network
(「たまプラnetwork」より)
今までの行政というのは,直接的な事業をするのが行政の役割だったわけですね。例えば,道路を作るとか,公園を整備するとか。また,計画を作るのでも行政が自分で計画を作る,というのが,今までの行政の役割だったんですが,これからは後方支援型に変わる。というのは,これからは政府と住民と企業が三者協力し合いながら,地域社会を統治していくという協働型の社会モデルに変わるということなんです。(記事より)
さて、ここでは東急「たまプラーザ」 駅周辺のまちづくりをテーマにインタビューがされているわけですが。
たまプラの街では、従来の行政発意型まちづくりのパラダイムを破るような、先進的なまちづくりが現在進行形で進められています。
今回のエントリでは少しモトスミを離れ、たまプラ周辺(横浜市青葉区美しが丘)で進められているまちづくりについて情報提供、事例紹介をしようと思います。
■プロジェクトの経緯と背景
このプロジェクトは、『次世代郊外まちづくり』ということで、横浜市と東急電鉄がタッグを組んで2012年よりスタート。
横浜市は従来より、建築局企画課にて「持続可能な住宅地モデルプロジェクト」を推進しており、市内の四ヶ所(青葉区たまプラーザ、磯子区洋光台、緑区十日市場、相鉄いずみ野線沿線)をモデル地区として選定しました。
中でもここたまプラーザでは東急電鉄とのコラボにより、大々的にプロジェクト推進がなされています。
(横浜市ページ http://www.city.yokohama.lg.jp/kenchiku/housing/jizokukanoupj/)
なぜ今、郊外の持続可能性なのか。
このあたりはたまプラのプロジェクトページ「次世代郊外まちづくり」にちょうど良い記述があるので引用します。
1960年代に始まった高度経済成長に合わせ、都市へ集中する労働人口の受け皿として、郊外住宅地は大都市近郊に開発されてきました。一般的に郊外住宅地は、都心へのアクセスが良く、自然環境に優れ、鉄道駅を中心として整備された都市基盤と良好な環境の住宅地、生活を支える商業施設や子どもたちのための教育環境も整っています。しかし、そんな大都市近郊の郊外住宅地が、いま危機を迎えています。わが国が迎える戦後初めての人口減少社会、そして世界中のどこの国も経験してない超高齢社会がやってきます。経済の発展と都市への人口集中、都市の拡大を前提に開発された郊外住宅地、その都市基盤や生活インフラは、都心へ通勤する現役世代が住まい、暮らすことを中心につくられてきました。
若くて元気で、きれいで安全な郊外、そんなイメージが強かった郊外住宅地も、住民の高齢化と建物などの老朽化、そしてライフスタイルや住まい意識の多様化による若い世代の郊外離れなどに伴い、まちが活気を失い、衰退してしまうのではないかと危惧されています。
もちろん、「まちが活気を失って衰退する」と言っても、急にまちが消え去ったり、経済的に破綻したりというようなわかりやすい形を伴って現れるわけではないでしょう。
街が持つ魅力、人を引きつける引力のようなものが漸進的に弱まっていくこと。
それにより、「ああ、なんかここ寂れてきたね」と感じる人が増えていくこと。
このことは、横浜市というある種独特の性質を持つ都市にとって大きな問題となります。
横浜市が他の政令指定都市と比べて異色(かつ弱みでもある)なのは、東京に対するベッドタウンとして発展してきた郊外自治体だということ。
横浜市以外の政令指定都市を考えると、そのほとんどがその都市圏において中心的な自治体であるということ。大阪市然り、名古屋市然り、福岡市然り。(最近は少し異なるパターンも指定都市になっていますが。。。)
その郊外自治体としての横浜市が、ベッドタウンとしての魅力さえも失っていくことは、横浜のアイデンティティを失うことを意味すると言えるでしょう。
横浜市がこのプロジェクトに力を入れる理由も、想像に難くありません。
■「次世代郊外まちづくり」プロジェクト概要
さて、そのたまプラーザで何が進められているのか。
私は個人的に、「行政主導で地域コミュニティを変化させる」試みであると位置付けています。
そもそも行政による従来的なまちづくり・地域介入とは、記事中で小泉先生が仰っているように、事業ありき・結果ありきの入り方が支配的だったと言えます。
都市計画道路事業や再開発事業が好例なのですが、「お上」としての行政が、行政の考える「公共の福祉」に従って地区へ介入。時には地域住民にとって大きな痛みを伴う地区の変化を余儀なくされてきた。
ここではもちろん、それが良かった、悪かったのだと主張したいわけではありません。
ただ、近年明らかに行政の地区への介入の仕方が変化してきており、「地域住民意見を重視する」ということが時代の流れになってきていると思われます。
もちろん自治体によっては、住民懐柔・アリバイづくりとしての住民参加という側面もありましょうが、それでも地域に対する行政介入のアプローチ方法が変わっていることは確かだと言えます。
そして、たまプラーザ地域で進められている試みは、その一つの完成形と言えるでしょう。
それを一言で乱暴に言うならば、
「地域住民に計画を作らせて、住民の手によって実現させてしまう」というもの。
従来は、住民や住民組織を巻き込んで協働で作った行政計画でも、その内容はどこか行政任せになっており、
住民「これだけ詰め込んだんだから役所はちゃんとやれよ」
といったスタンスのものが多かったように思います。
行動計画の主語は常に行政組織であり、住民は“施しを受ける客体”でしかなかった。
それが今回、協働で作った計画について、その実現についても協働で進めていこう、という形がとられているわけです。
これは個人的に、画期的なほどのパラダイムシフトであると捉えています。
さて、たまプラでこれまで行なわれてきた取り組み内容は以下の通り。
Ph.1 地域住民を集めてまちあるきなどを行い、地域の課題を抽出する
Ph.2 地域課題をふまえて、将来どんな街にしたいかという未来の物語を考える
このあたりは、街の計画を住民協働で検討する上では近年【ありがち】とも言えるアプローチです。
特定地区の計画を作る上で、その居住者の意見を聞かずに進めるということは今もはやありえません。
街の人に地域課題を抽出してもらって、「こんな街になったらいいな」という計画を考えることは当然の流れになっている。
初動期としては、他地区と基本構図として変わらない形がとられているわけです。
しかし一つだけ強調するならば、このたまプラーザ地域で特殊なのは、その全てを
「デカいハコを借りて、100人近い住民を集めて」やっているということ。
(次世代郊外まちづくり公式HPより)
他地域ではこうしたイベントを試みても、ワークショップ6テーブル用意して1テーブルしか埋まらないなんていうことがざらでした。
こうしたイベントに顔を出すのはは従来、
・主に立場や行政からのお願いで参加する、自治会・町会の役職者
・本当に街を思い活動したいと思う参加者
が主であり、一本の地域住民にとってまちづくりの敷居は高かった。
地域住民の質の問題か、イベントのPRの問題か、そのあたりの背景は不明ですが。
ともかく、このたまプラーザ地域では、初動期から巻き込まれている住民の数が飛び抜けているのです。
Ph.3 「未来の物語」を実現するために、行政と企業と住民のどんなコラボレーションがありうるかを考える
ここから、このたまプラ地域のアプローチの特殊性が出てきます。
計画を作って、「あとは行政さん、これに沿ってよろしくね」とするのではなく、「さて、これからこの計画をどうやって実現させていきましょうかね」という流れを作り、住民自らに実現のための筋道を描いてもらっているのです。
特にこれは、漠然とした総花的なことではなく、プロジェクトベースでの話に落ちていることが特徴で、この話はPh.4へ有機的につながっていきます。
住民の主体的参加を、計画策定したところまででストップさせないということ。
Ph.4 やれるところから参加者で始めちゃう 【究極】
これがおそらく、たまプラーザの取り組みにおいて最も特徴的なところでしょう。
Ph.3で計画実現のための筋道を考える中で、たくさんの個別プロジェクトのアイディアが出てきます。
例えば空き家活用だとか、高齢者福祉サービスだとか、若者を対象とした活性化プロジェクトだとか。
これら「住民創発プロジェクト」を起こし、活動を後押ししていくわけです。
こうして、住民自らが計画策定に関わり、実現のためのプロジェクトを実行するところまでがパッケージ化される。
今は多くの住民創発プロジェクトの芽ができており、個別の活動が始まっているようです。
いまはこのフェーズ。自らが検討した計画・まちの将来像の実現に向けて、住民ががんばっている段階というわけです。
Ph.5 軌道に乗ったら、外部支援者は支援を終える(未)
個人的に、ここが一番大事なところだと思います。
震災復興支援なんかもそうですが、ある外部からの支援者が、その地域に永久的に責任を持って関わっていくということは不可能。一定の期間を終えたら離れることとなります。
しかし、その地域にとって、「一緒なら歩けるけど、君が離れたら一人じゃ歩けないよ」という状態のままでは、極論すればその支援に意味はないと考えます。
重要なのは、支援を終えて、外部支援者が離れたとしても、その地域が独力でまわっていける、「自走状態」が可能なようにすることが、支援者の責任。
たまプラーザでの動きは、そういう意味で今後も注意深く見ていく必要があると考えます。
公式サイトはこちら
◼︎結びに
さて、たまプラーザ地域でこんな大規模プロジェクトが可能なのは、横浜市と東急電鉄という二大主体の腕力と思惑があってこそだということは、確かに一理あるでしょう。
横浜市の前述のような事情や、同じくその沿線に郊外地域を多く抱える東急電鉄にとって郊外住宅地の持続可能性は死活問題であり、このプロジェクトに莫大な投資をする背景も想像に難くありません。
しかし私がそれでもこのプロジェクトが重要だと感じるのは、その理念が「地域をつくるのはわたしたち住民である」という共助の考え方に強く基づいていること。