役所の設計業務について詳しめに書いてみた - 「なぜ役所を辞めたのか?第2回 営繕業務とは【前半・設計編】」
前回のエントリでは、役所における建築系職員の職域を簡単にレビューしてみました。
役所には「建築行政」「都市整備」「建築営繕」の3つの職域があって、大まかな人数比では5:3:2くらいの感覚です。
営繕とは
まず、私が役所でどんな仕事に従事していたのかということ。
それは、3つの職域のうち三つ目に挙げた営繕業務でした。
営繕とは、「建築物の営造と修繕」のことをいい、建築物の新築、増築、改築、修繕、模様替等の工事を指します。
(国土交通省HPより)
以下に、実務の具体的な流れを説明してみます。
私は改修工事しか経験がないので、改修に限った場合としてご理解いただければ。
設計(狭義)
まずは工事図面を作成するところから。。。と思いきや、その前に計画を策定することが必要になります。
一般に、計画のフェーズには以下の4段階があると言われます。
①基本構想→②基本計画→③基本設計→④実施設計
このうち四つ目の④実施設計こそが実際の工事発注に使われるものなのですが、小規模な改修工事では最終段階の実施設計から始めることが少なくありません。
もちろん中規模以上の工事、例えば庁舎の新築やリニューアルにおいては、基本計画や基本設計、基本構想の段階から始めることになります。
参考イメージとして、「ゆいの森あらかわ」における基本構想と基本計画、基本設計を示しておきましょう。
「(仮称)吉村昭記念文学館基本構想」がまとまりました 荒川区公式ホームページ
(仮称)荒川二丁目複合施設基本計画を策定しました 荒川区公式ホームページ
(仮称)荒川二丁目複合施設の基本設計がまとまりました 荒川区公式ホームページ
さて、実施設計まで進んだとします。
まずは現地調査で得られた情報や事前計画を材料に、工事の図面を作成することになります。
作成するのは、配置図や全体平面図、断面図、天伏図、必要があればそれぞれの詳細図面。
改修工事では既存施設のどの部分を改修するのかをハッチで示したり、現況と改修内容がきちんとわかるような図面を作成しなければなりません。
これらを、CADと呼ばれる作図ソフトを使用して作成します。
実施設計図の参考イメージ(福井コンピュータアーキテクトHPより)
工事図面が完成した後は、図面で表現できない事項を書き連ねた各種仕様書を作成します。
どこの官庁営繕工事でも従う内容は国土交通省作成の共通仕様書に記載されていますので、工事毎に作成する仕様書は特記仕様書とか特則仕様書とか呼ばれます。
積算
次は工事の金額を計算するフェーズで、積算と呼ばれます。
作成した工事図面から、必要な材料や作業の数量を全て拾い上げます。(数量拾い)
次にそれらを数量計算書としてまとめ、必要な数量を決定します。
数量計算書の参考イメージ(建物診断設計事業協同組合HPより)
数量計算書が完成した後は、設計書と呼ばれる工事の内訳書を作成します。
工事図面からだけでも、工事に必要な作業や材料についての情報を読み取ることは可能ですが、それだけでは解釈に幅のある部分も出てしまいます。
それを防ぐための参考として、役所では工事金額の算定に用いた項目(細目など)とそれぞれの数量を、補助的に公開するのです。
例(適当です)
細目 | 摘要 | 数量 | 単価 | 金額 |
---|---|---|---|---|
コンクリート打設 |
普通コンクリート 呼び強度?? スランプ?? 打設手間共 人力 |
??㎥ |
ここで大事なのは、公開されるのは細目名称と数量のみで、単価の情報は隠されていることです。
役所で使っている単価は機密情報とされ、流出が厳しく禁止されています。
入札候補者はその空欄に独自の金額を入れて、入札価格を決めるわけです。
実際のRIBC画面イメージ(一般財団法人建築コスト管理システム研究所HPより)
この設計書が確定することで設計作業は完了。
ここで作成した一式のものが、設計図書となるわけです。
設計図書(せっけいとしょ)とは、工事を実施するために必要な図書で、設計の内容を示す書類。図面(設計図面)・設計書及び仕様書・その他の書類(現場説明事項書や構造計算書等)からなる。建築物や工作物の製作・施工に必要な図面類と仕様書の総称。実施設計図書とも呼ばれる。
(wikipediaより)
決裁
営繕業務に限ったことではありませんが、役所が意思決定することを一般に決裁と呼びます。
これで決定、フィックスだということですね。
設計図書の作成においても、
①金額算定前(金額抜き設計図書)→②金額算定後(金額入り設計図書)→③工事契約を依頼しますよ(工事施行)の3段階において決裁をする必要があります。
決裁とはつまり、ハンコです。
工事の規模に応じて、課長までの案件であったり、部長までの案件であったり、局長までのハンコが必要な案件と様々。
担当者から始まって順番に回議し、必要なハンコが揃った時に、決裁となるのです。
横浜市の起案用紙(横浜市行政文書取扱規程より)
工事の設計図書が確定したところで、工事契約を担当する部門に持ち込みを行い、工事入札となるのです。
設計業務委託
大事な情報を最後に出すわけですが。。
ここまでに説明した設計業務を、公務員が直営で行うことはほとんどありません。
小規模な工事を除いては、設計業務自体を設計事務所やコンサルタントに丸投げ委託するのです。
ですので、複雑の図面の作成や積算業務、実際に手と頭を動かすのは受託業者ということになり、行政担当者はあくまで委託業務を監督する立場にすぎません。
もちろん、監督する上では工事の内容を理解する必要はあるのですが、専門技術を有する設計事務所が実作業を担うことになります。
行政担当者は必要な調整(庁内関係課や監督官庁との打合せ設定など)を行うほか、図面の途中チェックをすることとなるのですが、技術や専門知識が蓄積されていない素人目線のチェックになってしまいがちなデメリットは残ります。
行政担当者が直営設計を行わなくなった背景には、市内中小企業へ仕事機会を与えようという意図があります。
まとめ
以上、役所の営繕業務の半分である設計業務について、簡単に説明してみました。
工事を発注する前に、設計図書を作成するということ。
そして、その作成業務自体も外注化されており、行政職員が自ら図面を描画することは少なくなっているということ。
行政職員が、外注化された仕事のチェック係になってしまう昨今においては、責任が不明瞭になってしまうことから、積算ミスが増えてしまうのも経験的にうなずけるものです。
その積算ミスは、たまに起こる事件によって明るみに出ることとなるわけですね。